CURATION
2026/09/17
なぜプロは住居用だけを見ないのか?事業用不動産が「投資」として面白い理由
不動産投資というと、多くの人が最初に思い浮かべるのは区分マンションや一棟アパートです。自分も家に住んでいるので分かりやすいし、「このマンションなら住みたい」「駅から近いから貸せそう」という感覚も持ちやすい。
でも、不動産投資をもう一段深く勉強するなら、住居用だけを見ていては足りません。むしろ僕が研修で知ってほしいのは、なぜプロや大きな資本を持っている会社ほど、オフィス、店舗、物流施設、ホテルといった事業用不動産を扱っているのかということです。
REITの中身を見ると「不動産投資」の景色が変わる
これは感覚論ではなく、実際にREITの中身を見ると分かりやすいです。不動産証券化協会(ARES)のデータでは、2026年5月末時点のJ-REITの運用資産額は約24.5兆円。そのうち住宅は15.4%です。
| 用途 | J-REIT保有資産の割合 |
|---|---|
| オフィス | 36.6% |
| 物流 | 19.9% |
| 住宅 | 15.4% |
| 商業 | 14.4% |
| ホテル | 11.1% |
もちろん住宅専門のREITもありますし、「プロは住宅を買わない」という話ではありません。ただ、全体を見ると住宅だけで不動産投資が成り立っているわけではないことは分かります。オフィス、物流、商業、ホテルなど、事業用不動産が非常に大きな割合を占めています。
個人で不動産投資を始めると住宅から入る人が多い。一方、資金量が大きくなって機関投資家やファンドの世界まで見ると、投資対象は一気に広がります。ここを知らないまま「不動産投資=マンション投資」と考えていると、不動産という商品の半分以上を見ていないようなものです。
住友不動産はマンションを売る。でも収益基盤はオフィスビル
分かりやすい例が住友不動産です。住友不動産と聞くとマンションのイメージを持っている人も多いと思います。実際、分譲マンションを建てて販売しています。
でも会社が長期的な収益基盤として持っているものを見ると話が変わります。住友不動産は東京都心を中心に230棟を超えるオフィスビルを展開していて、会社自身も東京都心のオフィスビルを中核とする不動産賃貸事業を成長基盤と説明しています。
ここは不動産投資を考えるうえで面白いところです。
住宅は「建てて売る」という事業ができる。一方で、良いオフィスビルは保有して、長期間賃料を取る収益資産にもできる。大手不動産会社の資産の持ち方を見ると、事業用不動産の意味が見えてきます。
事業用は、賃料を動かせる幅が大きい
僕が事業用不動産の面白さとして最初に伝えたいのは、賃料を動かせる幅が住宅より大きいことです。
住宅の場合、家賃10万円の部屋を突然15万円にしても、周辺に10万円前後の物件が並んでいればなかなか決まりません。結局、その地域に住む人の所得や周辺家賃との比較があります。設備を入れ替えたりリノベーションしたりしても、賃料にはある程度天井があります。
事業用は少し違います。例えば月100万円の店舗でも、その場所に出店することによって月何千万円という売上を作れる企業なら、賃料100万円が必ずしも高いとは限りません。オフィスでも、その場所に本社を置くこと、採用しやすくなること、取引先へのアクセスが良くなることに経済的な価値があります。
つまり事業用の賃料は、単純な「部屋のきれいさ」だけで決まらない。その場所を使って、テナントがどれだけ事業上の価値を作れるかという要素が入ってきます。需要が強くなれば、更新やテナント入れ替えのタイミングで賃料を上げられる可能性も出てきます。
築20年、30年だから価値が落ちるとは限らない
住宅を探しているお客様からは、「築何年ですか?」「お風呂は新しいですか?」「キッチンはきれいですか?」という質問が普通に出ます。でもテナントを探している会社から、最初の質問として「築何年ですか?」と言われることは、住宅ほど多くありません。
店舗なら「この道から見えるのか」「人が通るのか」「看板を出せるのか」。オフィスなら「駅から何分か」「何人入るのか」「採用しやすい場所か」「取引先へ行きやすいか」。物流施設なら高速道路や幹線道路へのアクセスが重要になります。
築年数より、この場所を使うことで事業が成立するかどうか。ここが事業用不動産の大きな特徴です。
だから、築年数が進んだからといって住宅と同じような感覚で価値が落ちるとは限りません。建物として必要な性能を維持していて、立地に強い需要があれば、古いビルでもテナントが入り続けることがあります。エリア自体の価値が上がれば、築年数が進んでいても賃料が上がるケースさえあります。
原状回復と設備負担も、住宅とは全然違う
もう一つ僕が事業用で面白いと思うのが、オーナーの設備負担です。住宅は意外と設備が多い。風呂、キッチン、トイレ、エアコン、給湯器、洗面台など、普通に生活するための設備をオーナー側が用意しています。
しかも毎日住みます。風呂にも入るし、料理もするし、洗濯もする。設備を毎日使うので、当然壊れるものも出てきます。退去すればクロスや床、設備などの修繕も発生します。
事業用、特に店舗やオフィスの場合は契約によってかなり変わります。スケルトンで貸してテナントが自分で内装を作る物件もあるし、退去時にテナント負担で原状回復する契約も多い。住宅のようにオーナーが風呂やキッチンを全部用意する必要がない物件もあります。
事務所なら夜間や休日は誰も使っていないこともあります。住宅のように24時間生活する場所ではないため、用途によっては建物内部の劣化も比較的緩やかです。当然、飲食店や工場のように住宅以上に設備負荷や汚損が大きくなる用途もあるので、ここは「事業用なら全部楽」という意味ではありません。
事業用は「用途」を組み合わせられるのも強い
そして、住宅だけを見ていると分かりにくいのが用途のバリエーションです。
不動産投資というと「ワンルームかファミリーか」「区分か一棟か」くらいの違いで考えがちですが、事業用まで広げると、オフィス、店舗、倉庫、物流施設、ホテル、クリニック、介護施設など、投資対象そのものが変わります。
さらに、一つの建物の中でも1階を店舗、上階をオフィスにしたり、商業施設・ホテル・オフィスを組み合わせたりできます。大きな不動産投資になるほど、単純に「建物を買って貸す」ではなく、どの用途を入れれば、この土地から一番収益を生み出せるのかという発想になります。
この感覚は不動産営業をやるうえでも重要です。「今ある建物をいくらで貸せるか」だけではなく、「この不動産は誰に、どんな用途で使ってもらえば一番価値が出るのか」まで考える。それができるようになると、不動産の見方がかなり変わります。
その代わり、外したときのダメージも事業用の方が大きい
もちろん、ここまでの話だけを聞いて「じゃあ住宅より事業用の方が絶対いい」と考えるのは違います。事業用は金額が大きくなりやすいし、テナントが抜けたときに次が決まるまで半年、場合によってはそれ以上かかることもあります。
月100万円のテナントが抜ければ、1年間空いただけで単純計算では1,200万円の賃料収入がなくなります。飲食店しか使えない、工場としてしか使いにくいなど特殊性が強ければ、次に入れるテナントも限られます。
つまり、上手くいったときの収益改善余地が大きい代わりに、判断を間違えたときの振れ幅も大きい。だからこそ、立地、商圏、用途、契約、テナント需要まで読む力が必要になります。
マンション投資だけを見て「不動産投資」を分かった気にならない
個人が最初に住宅投資から入るのは全然悪くありません。むしろ分かりやすいし、小さい金額から始められるケースも多いので、不動産投資の入口としては理解しやすいと思います。
ただ、不動産会社で働く人や、不動産を本気で投資として学びたい人なら、そこで止まってほしくない。REITやファンド、大手デベロッパーが何を持って、どうやって収益を作っているのかを見ると、不動産投資の世界は住宅だけではないことが分かります。
事業用不動産を見ると、「物件を見る」から「不動産でどう収益を作るか」に視点が変わります。
賃料をどう上げるのか。どんなテナントを入れるのか。用途をどう組み合わせるのか。立地の価値をどう収益に変えるのか。ここまで考えて初めて、不動産投資の面白さが見えてきます。
※J-REITの用途別割合は、不動産証券化協会(ARES)「ARESマンスリーレポート」2026年6月号、2026年5月末時点・取得価格ベースを参照。
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